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桜がきれいに咲き乱れる四月。
僕、宮崎一郎は、念願叶ってとある駐在所に異動となった。
通り魔に襲われ亡くなった母。
母のような被害者を出したくない。
自分ができることをしたいと警察官を志し、警察官になってからも、交番や駐在所といった地域に密着している部署を希望していたんだ。
念願叶った駐在所での勤務。
充実していて、やりがいがあって。
毎日が楽しかった。
「おーい、宮崎くん。巡回の帰りでいいからウチに寄ってくれないか?野菜がたくさん採れて困ってんだ。もらってくれ。」
こんな風に、地域の人に声をかけられることも増えた。
ありがたいことだ。
地域の行事事、イベント事にも参加する機会も多々あり。
身長百八十五センチ、筋肉ダルマと言われてもおかしくない筋骨隆々の大きな体のせいか、力仕事をよく頼まれる。
頼られるのが嫌じゃないからか、何でも喜んで引き受けていた。
なので、駐在所に勤めはじめて数ヶ月後には、もともとここに住んでいたのかと思うくらい、地域に馴染んでいたと思う。
そんな中、僕には駐在所に勤めはじめてから、ずっと気になっていることがあった。
僕の担当地域のあるお宅。
主に巡回で回る道沿いにある平屋の一軒家。
スチールフェンスで家の周りはぐるりと囲われている。
そこまで高いフェンスではないから、容易にフェンスの向こう側の庭先は見えてしまう。
そんな庭にいるんだ。
放し飼いで飼われている、茶色い柴犬が一匹。
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