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 吉事のあとには、凶事がやってくる。  人生というものはなるほど、腹立たしいほどにバランスよくできている。 * 「え、時給が上がるんですか」  まかないのパスタを頬張りながら、黒川(くろかわ)憂姫(ゆき)は瞳を輝かせた。 「来月分から、五十円だけね。黒川さん、他のバイトさんの二倍は働いてくれてるから倍額上げたいところなんだけど……」  夕食時の繁忙時を終えたファミレスの休憩室で、テーブルの対面に座った店長・狭間(はざま)主税(ちから)は申し訳なさそうにうなだれる。彼の精一杯の労いに、憂姫は空いている左手を面前でブンブンと振り回しながら豪快に笑った。 「またまた、そんな。イチ女子高生を持ち上げても何も出やしませんぜ、店長」 「いや、ほんと。高校生じゃなかったら、正社員にスカウトしたいくらいだよ。しかも超進学校に通ってるっていうじゃない。平日の放課後プラス土日の労働と学業を両立させているなんて、すごいよ」  止まらない主税からの賛辞に、少しばかりこそばゆさを感じながら憂姫はつぶやいた。 「まあ、勉強は授業を聞いていれば充分だし。うちは母ひとり子ひとりなんで……」  働きが正当に評価され、対価を得られることほど喜ばしいことはない。家計の足しになる収入が増えることは素直にありがたい上に、さらにはタイミングの良いことに来月は母の誕生月でもあった。 「ちょっと高い肉でも食べさせてあげようかな、母さんに……」  就労(バイト)上がりの宵の口。  月の輝く夜道を軽く跳ねながら、憂姫は帰り道を急いだ。  これから自分の身に降りかかる出来事など、つゆ知らずに。
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