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「すみません、磨梨子さん。帰宅が遅かったので就寝されてるかと思い、声をかけずにそのまま自室へ上がっていました」
「ううん。いいのよ、そんなこと。それより……桜ちゃん」
ねっとりとした声色で、磨梨子は息子の愛称を呼ぶ。
「いとこ同士とはいえ、こんな夜更けに女性の部屋へ入るものではないわよ」
黙ったままの息子から顔を背けると、磨梨子は憂姫に向き直り一言発した後に部屋を出た。
「早く帰ってくるといいわね、美優希さん」
六年前。最初に母が蒸発して叔父の元へ預けられた時から叔母の磨梨子とは確執があった。
特に意地悪をされたわけではない。食べさせてもらえたし、最低限の衣類や生活用品も用意してもらえた。けれど、憂姫に対する磨梨子の発言には、いつもどこかしらにチクリと刺さる小さな棘のようなものがある。
この家で初めて初潮を迎えた折りにかけられた言葉が「おめでとう」でも「大丈夫?」でもなく、
『もう来たの。随分ませてるのねえ』
だったたことを六年経った今でも憂姫は忘れていない。とはいえ、まあ━━。
「一番解せないのは、子供を置き去りにする母なんだけどね」
*
ベッドの上に無造作に置かれたスマートフォンがピコン、と鳴る
『あのさ』
磨梨子に促されて自室へ戻った桜士から、メッセージが届く。
『母さん、悪気ないから』
即座に返信を送る。
『わかってるよ』
おやすみスタンプを送るより早く、折り返し桜士からコメントがきた。
『城てんちょーの次にオレがユキ姉を守るから安心せよ』
「なんだそれ……」
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