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「仕返しするつもりなんでしょ」
中庭に設置されたドリンクの自動販売機を前に未散がつぶやく。小銭を投入しかけた手を止めて、憂姫は振り返った。
「仕返し?」
「買った水を同じようにぶっかけるつもりなんでしょ、私に」
恨みがましくにらむ目つきから、台詞の本気度が伺える。「あのねぇ」と言いかけて小さくため息をついた憂姫は、未散の正面に向き直った。
「自分の印象が悪くなるようなこと、こんなに人目のある場所でやるわけないでしょ。ミッチー、頭大丈夫?」
「ミ、ミッチー?」
「下の名前、未散っていうんでしょ、灰野さん。だから、ミッチー」
ニックネームに慣れていないのか、ミッチー呼びに未散は戸惑う。
「やめてよ、恥ずかしい。だいたい、あなたと友達になる気なんて……」
「あ、友達になろうと思ってはないから。私も独りが好きだし、必要以上にミッチーの領域に踏みこむつもりないし。安心して」
「じ、じゃあ何で……」
「非常時には、助け合いましょ」
「非常時?」
「そ。学校って、何かと面倒が多いでしょ。やれ二人組になれだの、グループを作れだの」
「確かに……」
「察するところ、ミッチーにも友達いなさそうだし。非常時のパートナーになってよ」
「非常時のパートナー……て、ねえ。さっきから、かなり失礼な発言してるよね?」
出会って一時間に満たないとは思えない応酬を繰り広げる二人の背後には、塞がれた自販機を利用しようとする男子生徒が「あの、買っていいっすか」と声をかけてきた。
「あ、ごめんね。どうぞどうぞ。って……桜士」
「お、おうじ?」
即座に呼応した憂姫に続いて、未散も振り向き男子生徒の名に反応する。緩めに履いても分かる制服ズボンの隙間から、股下のトンネルが見えた。
「なんだ、ユキ姉じゃん」
長い足の持ち主である彼は、同高校に通う一学年下の男子生徒であり、憂姫の従弟でもある━━黒川桜士だった。
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