episode 01 灰色娘と三人の騎士

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「登校初日とは思えない馴染みっぷり。さすが、コミュ(りょく)オバケのユキ姉」 「何言ってんの。コミュ力オバケは、そっちでしょ」  アゴを突き出した憂姫が示した先には、数人の女子生徒が遠巻きに手を振っている。 「桜士くん、こっち向いてー」 「何飲むのぉ、奢ってあげるー」 「桜士さま~!」  瞬時にスマイル全開の笑みを顔面に張りつけた桜士は、長い手を振り上げた。 「『おうじさま』はヤバいだろ」  王子様に不似合いな、皮肉めいた一言を吐き出しながら。 「そうだ、ユキ姉。母さんから伝言。『今夜の夕食は必要かしら?』って」 「あ『結構です』って伝えて、磨梨子さんに。バイト先で食べるから」 「ふーん。わかった」  簡潔に会話を終わらせると、桜士は未だ廊下の端でワーキャーと手を振る女子生徒の波をモーゼの海割りのごとくかき分け、悠然と立ち去っていった。 「ね、ねえ。『おうじ』って……」  うつむき加減な姿勢のまま、尋ねにくそうに未散が口を開く。細かい経緯は端折りつつ、憂姫は桜士との関係を説明しようと試みた。 「あぁ、一個下の黒川桜士。従弟なんだけどね、事情あって奴の家に居候していて……」 「モデルやってる『桜士君』だよね。知ってるわよ、有名人だもの!」  さっきまでは敵地に臨む戦士のように警戒した目つきだった未散が、瞳を潤ませながら小刻みに震えている。 「モデルったって、ローカル雑誌の読者モデルだよ。無駄に手足長いだけの、ほぼ素人じゃん。知ってる?奴の幼少期のあだ名が『タカアシガニ』って……」 「桜士君をバカにしないで!」  壁ドンならぬ自販機ドンをかましたかと思うと、未散は憂姫の両手を取り低い声で囁いた。 「私たち、なりましょう。クラスパートナーに」
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