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「はぁ……疲れた」
アルバイト終わりの休憩室で、憂姫は珍しくテーブルに突っ伏して動けずにいた。追いかけるようにやってきた店長の狭間主税が、心配そうに覗きこむ。
「今日は客が途切れなくて、ホールもフル回転だったね。黒川さん、大丈夫?」
「いや、バイトの忙しさはいいんですよ。心地良い疲れなんで。ただ、学校が……」
「あぁ……叔父さんちに引っ越して、今日は新しい学校生活の初日だったんだっけ。お疲れの中、本当にありがとうね」
そもそも以前に籍を置いていた進学校も、母が喜ぶ顔が見たいがために通っていただけだった。大学進学に未練も興味もなかったし、働きながら一人暮らしをするつもりだったのだ。けれど━━。
「高校だけは卒業しろって、叔父が独断で近場の高校で編入手続きを済ませちゃって。ていうか、逆に店までが遠くなっちゃって……交通費が倍額かかるようになってもバイト続けさせてもらって、ありがとうございます!」
アルバイト先も変えなければと頭を抱えていたところ、店長である主税が「交通費はいくらでも出すから、辞めないで!」と懇願してきたのだ。
「僕が自腹で交通費を払ってでも辞めてほしくない人材だからね、黒川さんは。ほんと、何でも頼って。学校辞めて働きたくなったなら、いつでも正社員としてウェルカムだからね!」
「ありがとうございます……」
そこまで入れ込まれると実際のところ怖くもあるのだが、今は主税の厚意を憂姫は素直に受け入れることにした。
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「単なる女子高生好きなオヤジなんじゃねえの、その店長」
バイトを終えて、叔父の家に帰宅後。自室で課題に取り組んでいる憂姫の元へやって来るなり、桜士が毒を吐いた。
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