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「オヤジっていうか……まだ二十五歳だけどね、狭間店長」
「若。シゴデキ男で異例の昇進、てやつ?」
「アルバイトからの叩き上げらしいよ。根性あるから幹部の覚えも目出度いし、バイト店員からの人望も厚い」
「いいじゃん、優良物件じゃね?」
「何の?」
「彼氏候補に決まってんじゃん」
数秒前までディスる気満々だった桜士の口から、主税に対して賞賛めいたワードが飛び出す。
「彼氏っていうか……スポンサー?パトロン?いや、何も差し出してないけどさ」
「ユキ姉、悪!」
「精神のね、パトロン」
「頼って」と言われれば、利用しない手はないだろう。金品を受け取る気は毛頭ないけれど、支えたいと思ってくれている人物がいてくれるほどに心強いことはない。
「ユキ姉のバイト先のファミレスって、何て店だっけ?」
「え?『Castle』だけど……」
「お城、ウケる。いいじゃん、名前通り姫になれば」
「うるせぇ、名前負けのエセ王子」
憂姫は桜士に対して、桜士は憂姫に対して。二人は実の姉と弟のように、互いに本性を見せ合うことができる関係だった。
六年前にも一度、母には憂姫を置いて蒸発した前科がある。小学五年生だった憂姫は、母の弟であり桜士の父である健作の家━━つまりは叔父宅で、今と同じく一年間を過ごしたのだ。
二人がゲラゲラと笑い合う中。規則的で静かなノックが三度、ドアを鳴らす。
「憂姫さん、帰ってるの?」
憂姫の叔母であり桜士の母である、磨梨子だった。
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