再会

1/2
前へ
/10ページ
次へ

再会

 藩士柊木家の家督を継いだ吉次郎が兄の居場所を知ったのは、藩領最北の町に訪れたことが切っ掛けだった。 「なあ、聞いたかい?白狛山(しらこまやま)の【冬知らず】を仕留めたの、雪華(せっか)寺の和尚だったらしい」  休憩がてらに訪れた茶屋の片隅、地元の商人が神妙に語る話に思わず耳を傾けた。  北に聳える白狛山の麓にあった集落が【冬知らず】と呼ばれる熊に襲われ、壊滅したのは昨年末の事――。甚大な被害に選りすぐりの猟師達が派遣されたが、それすら屠る恐ろしい大熊だった。  いよいよ他の町や村への被害が出始め、大規模な討伐に乗り出そうとした矢先、驚くことに今いる町の役場に【冬知らず】が首だけの状態で杉皮に巻かれて届けられた。  これだけでも中々な怪談話であるが、杉皮には大熊を退治し、その毛皮を頂戴した旨を認めた一筆が添えられていた。  古来より白狛山の山頂付近には山寺があり、そこには古くから九尾の白狐が住まうとされいる為、人々はその白狐の仕業だと畏敬を込めて騒ぎ立てた。  そんな不可解な出来事の真相を確かめるべく、藩主は調査に乗り出すことを決め、先手として吉次郎が派遣された次第だった。 「流石は瑞雲(ずいうん)和尚だ。元々お武家の方だし、武芸は達人って訳だ…!」 「和尚は白狐様に愛されてるしなぁ!」  商人達は喜々とその話で盛り上がる。  堪らず吉次郎は席を立ち、商人達に歩み寄って声を掛けた。 「失敬。その話、詳しく訊かせてはもらえぬだろうか?」  そう訊ねた彼に商人達は一様に首を傾げた。  武家出身の瑞雲という僧侶―――。  その人は長らく行方知れずとなっている兄だと確信した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加