猫神様のお仕事

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猫神様のお仕事

私の名前は寝夢子(ねむこ)といいます。このたびはれて霊核を得て八百万の神の一人になりました。 神様といってもたいした能力はございません。せいぜい人間の女の子に化けるぐらいです。 私の前世は猫でした。 なので今の私はいわゆる猫娘なのです。 「はーもう食べられないにゃあ」 寝言を言う私の肩を優しく誰かがゆらします。 「ほら、出雲駅についたよ」 私が目を覚ますともうそれはそれは目が覚めるような美人が視界にはいりす。 黒い豊かな髪が印象的な絶世の美女です。 「ほら、口元によだれがついてるわ」 優しく言い、私の口をハンカチでその方はふいてくれました。 美人でしかも優しいのです。 この人は私の上司で左甚五郎(ひだりじんごろう)様といいます。 その正体はかの日光東照宮にまつられる眠り猫です。 左甚五郎様は出雲で八百万の神様がたの接待役を猿田彦様からおおせつかったのです。私はそのお手伝いをするべく、この地にきたのです。 十月は神無月といいますが、この出雲では神有月といいます。日本中の神様がたが出雲の地に集まるからです。 「さあ、これから忙しくなるよ。それこそ猫の手も借りたくなるぐらいにね」 左甚五郎様が言うとおり、それはもうむちゃくちゃ忙しかったです。 神様がたのお食事の配膳にお風呂掃除、泊まられるお部屋の掃除に、個別のたのまれごともこなさなくてはいけません。 夜は遅くに眠り、朝は早くおきなくてはいけません。 猫娘なのでそれはとても辛かったです。 「よく働くねえ」 あまのうずめ様がそう言い、頭を撫でてくれました。 「お腹が空いただろう、これをお食べ」 えびす様がとても美味しいお刺身を食べさせてくれました。 ある時、私が何枚もの食器を持ち、歩いているとある人にぶつかりました。 がちゃんと皿が落ちて割れてしまいます。 「あわわっ……」 あわてふためいた私は変な声を出してしまいました。 大きな体の蛇の神様が私を睨んでいます。 「我が衣を汚すとは死をもって償うがいい」 食器に残っていた食べ物でその方の衣が汚れてしまいました。 私は床に額をつけて謝りましたが、どうやら許してくれそうにありません。 「夜刀様どうかご容赦を……」 左甚五郎様が間にはいってくれましたが、それでも夜刀様は許してくれそうにありません。 「ならぬならぬ」 そう言い、鋭い爪の生えた手で私を夜斗様はつかもうとします。 その夜刀様の手を誰かがとめてくれました。 桃色の狩衣を着た、端正な顔立ちの若い男の神様です。 「ぐぬぬっ」 夜刀さまはうなります。 「女子(おなご)に手を上げるなら、この私が相手しよう」 夜刀様の手をぐっとつかみ、その男の神様は言いました。 「ふんっ……」 手首をさすりながら夜刀様はどこかにいかれました。 「ありがとうございます、吉備津彦様……」 左甚五郎様は頭をさげ、お礼を言います。 私も頭をさげてお礼を言いました。 「あっありがとうございます」 「いいんだよ、ほら吉備団子をあげよう。仕事に励みなさい」 そう言い、吉備津彦様こと桃太郎様は私に吉備団子を与えてくれました。 その吉備団子はほっぺたが落ちそうになるぐらいに美味しかったです。 怒とうの神有月はあっと言う間に過ぎました。 「よく仕事をやりとげたね。今日はゆっくり部屋で休むといいよ」 神有月の最後の日、左甚五郎様は私に休暇を与えてくれました。 私はもとの三毛猫にもどり、お布団でごろごろしていました。 猫は寝る子なんで寝るのが好きなんですよ。 「寝夢子、いいこだね」 誰かが私の頭を撫でてくれました。 その声は私が猫だったときの飼い主の声です。 たしか、おばあちゃんは数年前に亡くなったはず。 「お前が賢くしていたから、神様がご褒美に会わせてくれたんだよ」 おばあちゃんは膝に私をのせました。 私は久しぶりにおばあちゃんの膝の上でぐっすりと眠りました。 終わり
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