それはクリスマス・イブの事。

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この身勝手な女が窓を見ながら静止してしまうのを見て、俺は数年前のことを思い出した。 数年前の今日のことだった。 あの頃も俺は彼女がいなかった。いや、作らなかっただけで作ろうと思えばできたが。 街中がおめでたい雰囲気に包まれて、ネオン色に染まるこの日。 ふと散歩に出たくなった。それはほんとに、衝動的に。 いつもの道を通って行く。少し風を肌寒く感じていた。横目でカップルを眺めながら。 思いつくままに駅前を歩いていた、その時だった。 「え?」 俺らしからぬ間抜けな声を出してしまった。 「ねえ、誠華(セイカ)?どうしてさ、クリスマスってこうやっておめでたいんだろうね。」 「さあね、とにかく僕はこういう雰囲気は好きじゃない。」 「だろうね、」 前を歩く男と女。 クリスマスの日には珍しくない二人組。何の変哲もない光景だった。だが、俺はその男の方に釘付けになった。 俺がずっと探していた男だった。 聞き惚れる美声、高い身長、美青年と呼ぶのにふさわしい容姿。 間違いなかった。俺が探していた、男。 会えた嬉しさももちろんある。だが、急に話しかけるのも腹が立つし、何より俺は容姿という容姿が変わりすぎている。もし、あいつが気が付かなかったら・・・、と思うと声をかけるという簡単なことさえ俺を戸惑わせた。 が、その心配は一気に消えた。俺とそいつの目があった瞬間だった。そいつは、ゆっくり歩み寄ってきて言い放った。 「僕たち、どこか出会ったこと、ありませんか?」 その言葉は、初対面では馴れ馴れしいし、長年の知己としては余所余所しい、水臭い。が、無性にその言葉は嬉しかった。 「あると思いますよ。」 その嬉しさから俺は極めて冷静を取り繕って言い放つ。 「そこで話しませんか?」
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