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「あの二人、これからどうなるのかねぇ?」  駅までの道のり、オート三輪のなかに中矢ののんびりとした声が響く。 「どうにもなりませんよ」  和也は窓からの風景に目をやりながら、やはり間延びした声で返す。 「別に強盗をしたわけでもない。窃盗に当たるかどうかもあやしい。家のものを外の竹藪に隠しただけなんですから。それに宝石、真珠もすぐに見つかりましたしね」 「そうか。まあ、警察も暇じゃないしな」  駅に着き、和也が降りると中矢が近寄ってきた。 「あんた、最後何で逃げなかったんだ? ほら、静香さんが……」 「逃げるべきではないと思ったんです。あそこは何があっても彼女の思いを正面から受け止めなければいけないと」 「……そうか。まあ、それで良かったのかもな」  和也はオート三輪に寄りかかった。ほんの少しオート三輪がきしむ音がした。 「僕はね、時々思うんですよ。実は人間なんていう生き物はいないんじゃないかと」 「何だって?」 「人間なんて存在してなくて、別の何かが人間に化けてるんじゃないかと、そう思うんです」 「……そうかもな」 「……そう思わなきゃ、納得できないんです」  中矢は和也の言葉にこくこくと頷いた。  中矢の戦争体験を聞く気はなかった。友樹がベルリンで何を見たのか知る気がないように。  ただ中矢が頷いてくれたことが、自分の言わんとすることを理解してくれたことが、和也は何よりも嬉しかった。   「中矢さん、あとは頼みましたよ」 「ああ、もちろんだ。命をかけてあの家族は守るよ。お国だの何だのより、よっぽど守りがいがあるってもんだ」  中矢の爽やかな笑顔に、和也は少しだけ微笑み返した。  堂守和也は、その後も様々な難事件の解決に当たった。その中には日本の歴史の表に出たものも、秘匿されたままのものもある。  戦後の日本には堂守和也のような探偵が他にもいた。彼らの存在は日本の復興に間違いなく寄与していたが、その活躍は公には残っていない。            了
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