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 少しの間迷ったあげく、和也は署長の申し出を受けることにした。  理由は和也にも分からなかった。  謎解きや探偵の真似事が好きなわけでは決してないし、警察組織は和也がもっとも嫌う組織の一つだった。  だがそれでも、和也は行くことにした。  違法な闇コメやらを大量に隠し持った乗客に紛れ、和也は汽車に乗ってC県の田舎町を目指した。車内では長身で足の長く、黙り込むと物憂げな瞳が印象的な和也に女性の視線が集まっていたが、当の本人は少しも気づいていなかった。  署長が事件のあった家に電報を送っており、和也が駅に降りたつと、すでにオート三輪に乗った男が迎えに来ていた。  年の頃は和也と同じくらい。シャツに作業着のズボンというありふれた姿だったが、その筋骨隆々な身体つきはなかなか見られないものだった。 「よう来なすったね。こんな田舎まで」 「あなたが月島家(つきしまけ)の迎えの人?」 「ああ、丸道中矢(まるみちなかや)っていいますぜ。悪いね、こんなオート三輪で。でもこれ以外のはみんな軍とGHQに摂取されてね」 「別にかまいませんよ。カーブで転倒さえしなきゃね」  そう言って和也が肩をすくめると、中矢はゲラゲラと笑った。  オート三輪は前輪が一つだけなので、カーブでのハンドル捌きを間違えると重心を保てず転倒してしまうことがあるが、中矢の運転は安定していた。 「この辺りはもとからこんな閑静なんですか? それとも空襲で?」  駅から月島家まで、最初は数件の家と田んぼ以外何もない原っぱの中を通ることになった。  和也が尋ねると中矢はまた大声で笑った。 「もとからですよ。この辺りは戦争とはあまり関係なくてね。この先、山道を登って行った先に月島の家があるんでさぁ」  それから中矢は隣に座る和也のズボンにチラリと目を向けた。 「そいつはジーパンとかいうやつですかい?」 「ああ、進駐軍の払い下げ品を買ったんだ」 「アメリカ人の履いてたやつですか」  それから月島家に到着するまで、中矢は何も言わなくなった。  中矢が戦争に行ったのか、そこでどんな体験をしたのかを聞く気は、和也には一切なかった。  だが一方で、もし事件の解決に必要なことならためらわずに聞くだろうという予感が和也にはあった。
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