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「榊原さん、この見積もり間違ってる。直しておくように」
「すみません!!!」
私、榊原麻衣子は三戸部部長に声を掛けられ、先程提出した見積もりのミスを指摘された。頭をひたすら下げ、自席に戻り、見積もりファイルをクリックする。
ひぇぇ、提出して5分も経ってないのに、これだけの量をもうチェックしたのかぁ。三戸部部長、相変わらず仕事が早い。はぁ、また失敗しちゃったなぁ。
私は間違い箇所の修正に急いで取り掛かった。しばらく見積もりと格闘し、再びミスがないか3度チェックする。念の為、同期の立花君にもお願いして確認してもらった。
「大丈夫じゃない?」
「ありがとー! 今度、なんか奢る」
「おう、じゃあ、缶コーヒーな」
「了解」
「じゃ、営業行ってくるわ」
「いってらっしゃーい。あ、今夜、懇親会だよ」
「わかってる。それまでに帰ってくるって」
立花君を見送った後、三戸部部長に謝罪の文言と共に訂正済みの見積もりを送信する。
「榊原さん。仕事さえ完璧にこなしてくれたらいいから。謝罪とか不要」
「…………はい」
さすが、無駄が嫌いな三戸部部長。謝罪すらいらないと冷たく言われてしまった。でも、無言でポイッと上司に文書、送れます? いや、ムリ。ムリでしょ。
三戸部部長が女子社員憧れの的なのは知っている。そりゃ、こんな優良物件そうそうお目にかかれませんもん。でも、正直、私は苦手だ。できれば、あまり接点を持たない生活を送りたい。
「今夜の懇親会、榊原さんが幹事だよね。よろしく」
「あ、はい。盛り上げ、頑張ります」
「その意気込み、仕事にまわして」
「…………はい」
最後に特大の厭味を言われたが、まぁ、いつもの事なので、とりあえず愛想笑いを浮かべつつ、こっそり溜息をついた。
部長は飲み会の席でも羽目を外す事はまずない。終わったらさっさと帰るし、2次会にもこない。真面目で堅苦しいし……きっと飲み会なんて嫌いなんだろうなぁ。
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