東経138°地点の虫捕りと信仰

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現世の旅行で田舎道を歩いていたら、急に神様に呼び止められた。 「なんじゃ、鬼の若造が人間にまぎれておるな」 「わびっくりした。ここの神様っスか。こんちわ〜ごきげんよ〜」 「若造、その石札はなんじゃ。近頃、人間がそれを持ってわしを参りよる」 俺のAndroidのことらしい。聞けば近頃、人間がこれを持って神様に参りに来るそうだ。何十年も参拝者は先細り、年寄りがぼちぼち来るばかりだったのに、近頃はむしろ若い連中の方が多いから妙だと仰る。ついでにわしは名の知れた神だったんじゃとか、村中でわしを祀っていたとか、最近の人間は信心が足りなくていかんとか、そのせいでわしは長いこと衰えていたとか。ここぞとばかりに人懐っこく話しかけてくる。そもそも祠も藪の中だし、見える者が通り掛からなかったから話し相手もいなかったんだろう。 それにしてもスマホで祈るタイプの神様ってなんなんだろう。考え込んでいると、村人らしいキッズが『石札』を持って現れた。神様がそわそわして、キッズから石札について聞き出せと仰る。 「こんちわ〜。少年、なにしてるんスか?」 「こんちわ〜。ここさ〜、たまにダイジャが出るんだよ!」 「え??ああ、ポシェモンのね……」 キッズのスマホの画面にはこの辺りの地図をマッピングしたバーチャル空間。祠の位置ではクリスタルが回っている。神様の祠は、人気の位置情報ゲームのチェックポイントにされていた。 「うーん今日はダイジャいないなぁ。明日は出ますよーに!」 キッズはバーチャル祠からアイテムを回収して去っていった。神様はおおらかなもんで、小さな参拝者に満更でもなさげだ。 「あの童もよく来るんじゃ。今日も石札を擦っていたな。結局なんじゃった?」 触れない情報に大勢の人間が意味を見出して、捕ったり集めたり競ったり。これは、なんというか…… 「虫捕り……いや」 神様を知り、拝む者がいれば神様は力を持つと聞く。たとえそれが、バーチャルダイジャ出現祈願キッズでも構わないらしい。 「一種の信仰っスね」
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