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水那 2
トゥイを見送った後、水那は他のアルバイトと連絡を取った。
ひとり捕まった。本当なら朝九時まで働くところを、その店員が駆けつけ次第交代、と決まったのが夜明け直前。
まだ薄暗い中、店前を掃き清めつつ水那は思案した――。トゥイのアパートに行ったことはないが、聞いた覚えがある。退勤したらすぐ行ってみよう。……
その時だった。
激しく回転するタイヤの音。突如出現した凶悪なヘッドライトに切り裂かれ、水那は弾かれたように顔を上げた。
「ああ……っ!」
嘆息した時にはもう、暴走する乗用車はすぐ目の前に迫っていた。
運転席の老婆の顔は、正気ではない――水那の目からは、真っ黒な靄で塗りたくられているように見える。
トゥイに感じたのと同質の靄だ。すると、あの老婆も同じアパートの住人? あるいは大家か何かかもしれないが、とにかく、
(やられた……)
相手取ると決めた幽霊は、警戒した以上に上手だったらしい。こちらがもたもたしている間に、人を操り攻撃してくるとは。……
避けようもない。死ぬのだと即座に理解できた。
瞼を下ろす――。だが、心まで完全なる静謐とはいかなかった。
深い闇の中、ぽつりと落ちる透明な雫。それを中心に大きな波紋が生じていく。
そう、未練がある。
(トゥイ……!)
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