21人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
女僧侶 水霊
しゃん――と、全てを清めるかのような錫杖の音。
真夜中、女僧侶水霊は祈祷を終えた。
これにより、アパートに巣食った全ての悪霊達が消え去った。
あとは埃と、欠けた秋月の光だけが部屋に残されている。
異国の友の暮らした痕跡はない。
それでも、水霊はじっと見つめ、澄んだ大きな瞳に焼き付けた。
電気は通っていない。
仄光る錫杖の神秘を頼りに、三階から階段で降りていく。
張り巡らされた立入禁止のテープを潜って外に出た。
振り返り、見上げる廃アパート。看板には取り壊しの予定日が記されている。
大家の老婆は――いない。未練が消えたことで成仏したのだろう。
彼女もまた、悪霊達の犠牲者だ。車でコンビニに突っ込み、即死だった。
信心浅く、死んだ自覚も薄かったため、却って彼らに取り込まれずに済んだ……それでああいう儚い浮遊霊となっていたのだ。
「いやいや。とはいえあんたの敵だよ、トゥイ……」
苦々しく呟けば、かつての水那の面影が蘇る。
……あの事件の後、水那は髪を下ろし僧形となった。
寺の跡取りとして、修行を重ねつつ働く日々。その中で、トゥイとの奇縁がなお続いていることに気が付いた。
水曜日になると、化けて出るのだ――彼女が。
この肉体を借りて。
今日もそうだった。迷える霊や人を見つけては、誰であれ手を差し伸べる。
「無償で……!」
人助けは結構なことだが、頭の痛いところだ……。
最初のコメントを投稿しよう!