女僧侶 水霊

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女僧侶 水霊

 しゃん――と、全てを清めるかのような錫杖の音。  真夜中、女僧侶水霊(すいれい)は祈祷を終えた。  これにより、アパートに巣食った全ての悪霊達が消え去った。  あとは埃と、欠けた秋月の光だけが部屋に残されている。  異国の友の暮らした痕跡はない。  それでも、水霊はじっと見つめ、澄んだ大きな瞳に焼き付けた。  電気は通っていない。  仄光る錫杖の神秘を頼りに、三階から階段で降りていく。  張り巡らされた立入禁止のテープを(くぐ)って外に出た。  振り返り、見上げる廃アパート。看板には取り壊しの予定日が記されている。  大家の老婆は――いない。未練が消えたことで成仏したのだろう。  彼女もまた、悪霊達の犠牲者だ。車でコンビニに突っ込み、即死だった。  信心浅く、死んだ自覚も薄かったため、(かえ)って彼らに取り込まれずに済んだ……それでああいう儚い浮遊霊となっていたのだ。 「いやいや。とはいえあんたの(かたき)だよ、トゥイ……」  苦々しく呟けば、かつての水那の面影が蘇る。  ……あの事件の後、水那は髪を下ろし僧形となった。  寺の跡取りとして、修行を重ねつつ働く日々。その中で、トゥイとの奇縁がなお続いていることに気が付いた。  水曜日になると、化けて出るのだ――彼女が。  この肉体を借りて。  今日もそうだった。迷える霊や人を見つけては、誰であれ手を差し伸べる。 「無償で……!」  人助けは結構なことだが、頭の痛いところだ……。
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