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水那 1
「トゥイ、どうした? すごいやつれてる」
六月のこと。水那がトゥイの顔を覗き込んできた。
赤く染めた髪に合わせて、ばっちりメイクをしている水那。
対してトゥイはすっぴんだ。恥じるように笑って顔を逸らしたが、水那の瞳は真剣だった。
「人に言いにくい悩みでもある?」
「……どしてわかりますか? ミナさん」
「んな顔してたらわかる。話してよ」
そう言われてもなお、トゥイは血色の失せた唇を噛むだけだ。
着替え途中の半端な姿のまま、結んだ髪の毛先まで硬直して。けれど、床に落とした目だけは小刻みに揺れている。
瞬間、水那がスゥと表情を消した。
背を向けられた時、トゥイは思わず追いかけるように顔を上げてしまった。
が、水那はトゥイを見限ったわけではなかった。机の上の鞄から、何かを取り出して戻ってくる。
しゃん――と、全てを清めるかのような音がした。
「ミナさん、それは……」
「……今まで言ってなかったけど」
赤い髪、革ジャンにジーンズ。そんな彼女が手にしているのは、黄金色の小さな錫杖。
水那は、少しだけ苦しそうな目をして笑った。
「寺の娘なんだ、私」
「お寺……」
「継ぐ気もないのに、散々修行させられてね。なんであんなキツいことしなきゃいけないんだって思ってたけど……きっと、全部この時のためだった。私、トゥイを助けたい」
「ミナさん……」
「肩、重いでしょ。ちょっと貸して」
触れられて、背中を見せる立ち位置になる。
ロッカーの方を向いたトゥイには、水那が何をしたのかはわからない。肩に錫杖を当てられたのだろうか。
すると不思議なことに、全身にみるみる熱が巡った。
しゃん、しゃん、と音が聞こえて――。
「いいよ」
戸惑いがちに振り返ったトゥイは、両目を丸くして鎖骨に触れた。
「かっ……軽いです! 肩、すごく軽い!」
「春頃かな、妙な気配がするようになったのは。そろそろ訊こうとは思ってたけど、まさかこんなに酷くなるなんて」
「ミナさん……わかる、ですか? 信じてくれる? 私の話……」
泣き震える痩身を、同じだけ華奢な水那がそっと抱き寄せた。
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