21人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「……お……起きて……」
「……」
「起きて、起きて……と思います。あの女の人の気持ち……。わ、私の体、こう」
と、両手で水那の肘を掴む。
何度も大きく揺さぶってみせると、互いのパイプ椅子がキシキシと音を立てた。
「こう、こうやって、地震みたい――。そして、言います。起きて起きて……。あの人はたぶん、起きて、の気持ちです」
「トゥイはどうしてるの?」
「何も――できません。体、重くて動きませんから。何も見えません、言えません。体、死んだみたい……。耳だけ、起きて、起きて、たくさん聞こえます。すごく怖い、でも私、全然起きられません……」
「そしてそのまま朝になる?」
「はい……」
「やつれるわけだ。馬鹿なトゥイ、もっと早く相談してよ」
叱るようでいて、優しい温もりに満ちた言葉だった。トゥイは子供のようなしゃっくりを上げた。
よしよしと背中を摩りつつ、水那は呟く。
「事故物件ってやつかな」
「事故、ブッケン?」
「前に住んでた人が死んじゃった部屋のこと。次に貸す時は、そういうことがあったって言わなきゃいけない決まりなんだけど……もしかしたら、外国人だからって言わなかったのかもしれない……。管理会社に電話して確かめなきゃな。もし本当にそうだとしたら、担当した奴をぶん殴ってやる」
「ええっ?」
「まあ、これはまた別の話。今一番大切なのは、その幽霊をどうするかだ――」
最初のコメントを投稿しよう!