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トゥイ 2
布団に横たわると、間もなくあの現象が始まった。
耳の穴に直接流し込まれる声――。
起きて
起きて
◯◯て
△△て
✕✕て
(……!)
体が石になったみたいだ。固く目を閉じたトゥイは、仰向けのまま動けない。
……でも。そうなるのはわかっていた。
だから、最初から抱き締めていた。
しかと両手で握っていた――水那のお守りを。
(ミナさん……ミナさん……)
……綺麗な赤い髪。
格好いい革ジャンにジーンズ姿。
そして、澄み渡った大きな瞳。……
水那に貰ったものを胸に、ただ彼女のことだけを考える。
恐ろしい夜のはずなのに。
心細い暗闇のはずなのに。
どうしてだろう、光の中へ導かれるようだ。
早くまた水曜日になってほしい。
怖いからではない、会いたいからだ。
会いたい、水那に――。
「……ィ。トゥイ。……トゥイ!」
「――えっ?」
瞬きながら目を開けた。
うっすらと闇が和らいでいる。もう夜明け近いのだろうか。
必死に名を呼ぶのは――。
「トゥイ!」
「ミナ……さん? どして……」
「バイトはフケてきた、トゥイが心配で。無事でよかった……本当に、よかった……っ」
溢れる大粒の涙が――綺麗だ。
トゥイは柔らかく微笑んだ。
ゆっくりと上体を起こし、手を伸ばすと、笑い返した水那の赤い唇がこめかみまでひび割れて縦に黒々と長く大きく開いて何重もの不揃いな歯列が指先から齧りつきあっという間に手首も肘も飲み込んで二の腕を食い破り骨が砕け散る音がして激しく地面に打ちつけられて折れて割れてひしゃげて潰れて暗転して瞼はもうヒクリとも動かず閉じられないまま。
やっと 死んでくれた
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