プロローグ

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プロローグ

 月の女王、『ルナ』が失踪した。  齢十六にして女王となったルナは民衆から向けられていた悪意の眼差しにも負けず、誰もが讃える見事な政治をしてみせた。月の民は、一瞬にしてルナの虜になった。  だがある日、ルナの住まう王城が賊に襲撃された。王城で働いていた兵士や従者は全員死亡。ルナは一滴の血痕も残さずに突如として失踪した。  ルナを失った月は、徐々に混沌と化していく。ライフラインがまだ絶たれていないのは、奇跡と言ってもいい。  静かに終わりを迎える月の世界は、運命という言葉で充分に形容できた。月の民は、それを受け入れた。  女は、少女の泣き声を聞いた。女は、少女を抱きしめた。少女は言った。 「どうして、ママは自殺したの?」  女は、しどろもどろになりながら、少女に語った。 「……あなたのためだったと、思う」
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