可愛い配信者と醜い素顔

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「みんな~、こんにちにゃ~」 わたしは、配信者として復活した。ただ、アバターを使っている。 素顔での配信も考えた。だけど、それはわたしのしたいことじゃない。わたしのしたいことは、このアバターを使っての配信だ。このアバターになって配信するのが好きだから! 復活直後は、コメント欄は荒れた。わたしの素顔を公開しているリンクが貼られたり、揶揄するようなコメントや、詐欺だといったコメントが多数来た。 だから、何? わたしは、わたしの人生を生きることに決めたのだ。わたしを好きでもない人から何を言われても傷つかない。興味もない。 わたしは、自分の幹となる部分をはっきりと決めた。そして、これを、わずかでも動かすつもりはない。 コメント欄に目を通すと、わたしを応援してくれている人がいることに気が付く。 「わたしはずっとファンです! これからも頑張ってください!」 「勇気、もらいました!」 こんなわたしでも、好きでいてくれる人がいるんだ。 それを知り、わたしはますます強くなっていく。 そんなわたしを見て、救われる人も少しずつ現れていた。 岩石のような顔面を持つのは、何もわたしだけじゃない。それに、人は少なからずコンプレックスを持っていることが多い。どんな美男美女であっても、どれだけ恵まれている人であったとしても、コンプレックスのない人間はほぼゼロだ。 そんな人たちに、わたしは勇気を分け与える存在の象徴に次第になっていった。 最も、わたしが何かしたわけじゃない。わたしは、わたしのやりたいことを、わたしらしくやっているだけだ。 ある時、インタビューを受ける機会があった。 「あなたは、世間から大変な評価を受けています。自分らしく生きる象徴のようになっているそうですね」 「ありがたいことです」 「何かきっかけでもあったのですか?」 そのきっかけは、わたしをどん底まで突き落とした。言わずもがな、自分の隠したかった顔面が世間の目に触れたことだ。わたしは、その時、本当に死のうと思っていた。 だけど、今ならはっきり言える。あのきっかけがあったからこそ、わたしはわたしとして生きることができるようになったのだと。 きっかけは、悪い方向に転がすことも、良い方向に転がすことも、両方できる。それを決めるのは、自分自身の心だ。 わたしは一生懸命、猫を被り、息を潜めていた。そうしていなければいけないのだと、思っていた。 けれど、それは間違いだった。猫を被っても、誰も可愛がってはくれない。 するべきは、自分を愛でることだった。 顔も知らない誰かに脅える必要はない。声も知らない誰かの声に恐れる必要はない。 わたしの人生は、わたしが決める。 そう心に決めるだけで、人生は大きく化ける。 わたしはわたしの人生を謳歌する。 そして、人生の最期に少しだけ後悔するんだ。 もっともっとこの人生を生きたかった、ってね。 ~FIN~
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