週末異世界Ⅱ ~聖女様と幻影の城

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 ここは異世界大陸、幻影城の最深部。  日本の女子大生で、この世界ではなぜか聖女レイナになる私・玲奈はいつもの四人のパーティーでラスボスの狸王と対峙していた。  いやいや三か月前に魔王を倒しただろうって? それを言いたいのはこっちである。  大学ゲーム研究会に所属し異世界アニメやゲームを愛する私は、金曜日の朝に歯を磨こうとチューブを絞った瞬間、またまた異世界に飛ばされてしまった。  そういえば前回も金曜朝に飛ばされ、戻ってきたら日曜夜だった。どうやら私にとっては週末が鬼門、いや異世界とつながる門らしい。まあ、朝から「遅刻遅刻」とパンをくわえながら走っている時にトラックにはねられて飛ばされる展開よりマシなのだが。  前回は異世界一年・日本三日の旅だったが、今回はチート魔力とチート知識に加えて異世界大陸の予備知識があった。  魔王なきあとの大陸を支配した強大な狸王を倒すため、速攻で狼王ウォルフ、青年魔術師ピート、幼女治療師アリスの前回と同じ三人を集め、幻影城に乗り込むまでわずか三か月。 「みんな、厄介な相手よ。あらゆるものに化けるだけでなく、形勢不利と見れば瞬時に消えてしまう。不意を突いて倒すしかないわ」 「てめえがあらゆる人間をだます狸王か。このウォルフ様がたたき斬ってくれるわ!」 「ウォルフ、狸王の幻術は強力なの……アリスとピートもきっとだまされるの!」 「アリスの言う通りだ。僕の防護魔術も奴の幻術には無力だ。僕らが君たちを攻撃するようなら、ためらいなく僕らを倒してくれ」 「冗談でしょう、ピート。そして安心してください、アリス。私は聖女レイナ、何があっても仲間を倒すようなことはいたしません」 「……いや俺、一回レイナ嬢に本気で倒された記憶が?」 「ウォルフそれはあんたが悪いんでしょ!」  目の前の巨大な狸王が「ふぉふぉふぉ」と不快な笑い声をあげた。 「威勢のいい聖女タヌ。だが幻術は高等生物ほど有効タヌ。いつまで耐えられるか楽しみタヌ」
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