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後に残ったのは、かわいい子ダヌキとメスダヌキの二頭と葉っぱが二枚。子ダヌキたちは私を見て、おろおろと怯えた。
「子供のいたずらがちょっと過ぎたのね。山にお帰り。もう人里に出てくるんじゃないわよ」
私がにっこり笑って手を振ると、子ダヌキたちは元気に走って岩の部屋を駆けだしていった。
「レイナ、さすがは聖女様だ。僕らもひどくだまされていたみたいだけど、レイナが広い心で許すなら、まあいっか」
「アリスもいいと思うの」
ピートとアリスも笑顔に戻る。ウォルフが頭をかいた。
「まあ……いいんじゃねえか? 俺も散々な目に遭ったが、子供のやったことならしゃーないわ」
「私、山の生き物を信用したいの。地球という異世界の星では、人間がたくさんの動物を絶滅させてしまった」
「そうなのか?」
「私がいた東北ではね、狸や狐が人間を化かす話がたくさん残っていたの。おばあちゃんが話してくれたけど、山は開発されちゃって、日本の昔話も今は絶滅危惧種。私がこんな歳になって魔法や異世界好きなのも、あんなわくわくする空想をしたいからかな」
「それがレイナ嬢の故郷か……お前がこの世界で聖女になる理由がわかった気がする」
ウォルフが少しだけ、しんみりとする。
「その異世界では、狼が登場する話もあるのか?」
「あるよ」
「ど、どんな話?」
「西洋だけど。狼がおばあちゃん食っちゃう話」
「!!」
「そんで狼が満腹で寝てる間に、復讐に燃えた赤い帽子の幼女がハサミで狼のお腹を裂いて、おばあちゃんを内臓から取り出すの」
「……」
「で、おばあちゃんの代わりに石をたっぷり詰めて、お腹を縫った真っ赤な幼女が高笑いする話」
「何そのマッド幼女グロ展開! あと石詰める場面、必要???」
「あれ爽快でさー! 子供心に一度やってみたかったのよねー」
「ひょっとして、それで俺に剣を向けた?」
「まあ、このさい斬るのは狸でも狼でもいいかなーって。大丈夫大丈夫、そのために聖女の魔力と幼女アリスの回復魔法があるんだから!」あははは
「ウォルフにーちゃんのお腹に石詰めて縫えばいいのね。アリスわかったー」
「なんでそこだけ物分かりがいいのアリス!」
◇
こうして私たちは笑顔の三人と、なぜかげっそりした顔の一人で、王都に無事帰還したのだった。めでたし、めでたし。
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