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ドラマやマンガで定番なのは、地味で眼鏡で陰キャな人物が、眼鏡を外すと実はイケメン――若しくは美女――というやつだろう。定番中の定番過ぎて、新鮮さもないし先が読めてしまう。
二次創作にしてもオリジナルにしても、この設定を活かすとしたらよっぽどギャップをつけるしかない。
蛍光灯光る教室の天井を見上げつつ、くるり、と手にしたシャーペンを回した。息を吐きながら椅子の背もたれに体を預ければ、この前友達とお揃いで買った星型のピアスが揺れる。
「テンション低め~?」
涙袋をきらっきらに光らせた友人の美奈が、ビーズのブレスレットを幾重にも重ね着けした手を机に置き、顔を覗き込んできた。プチプラの甘い香水の匂いが鼻先に纏わりついてくる。まあ私も――私は柑橘系だけど――香水振りかけてるんだけど。
「んーん。ちょっと考えごと~」
ふんわりした返事をしながら、私は金に近い茶髪を、カラフルにネイルした指で梳いた。
茶髪にピアス、ネイルにブレスレット。瞼には濃いアイシャドウにバサバサつけ睫毛。どこにでもいる、ちょい派手女子高生。流行ってる言葉を使いこなし、キモ可愛いキャラを好む生物。
「ね~、日曜さ~ショッピング行かない? 新しいアウター出るらしくってさ~」
「ごめん。用事あるわ」
怠そうな声に手短に返せば、「そ~? じゃあ別の子誘う~」と特に残念そうな素振りも見せず去ってった。
「あー、あと三日か……」
再び天井を見上げ、今度は長々と息を吐く。くるくる、シャーペンを回す速度も増した。
あと三日で日曜日。嬉しさと焦りがごちゃまぜになった感情が込み上げてくる。だからかどうか分からないが、シャーペンが指から飛んでった。
音を立てて転がった先、きちんと爪を切り揃えた指がそれを拾い上げる。
「あっ、ごめーん」
軽く謝りながらそちらに向かって手を伸ばせば、眼鏡の奥の眉間に皺を寄せた顔がこっちを向く。そうして口元への字のまま、シャーペンを突きつけてきた。
隣の席のガリ勉くん。髪の毛一本の乱れも無くぴしっと整えられた黒髪に、第一ボタンまで閉められた制服。テストではクラス一位の真面目。
「ありがとー」
お礼を言うも、「ふん」と顔を逸らされただけだった。
冷たくあしらわれても今の私は気にならない。それよりも考えなければならない事があるからだ。
日曜日に開催される文学フリマ。それにサークル参加を申し込んだのはいいけど、原稿が一ページも進んでいない。既刊は数冊ある。だけど参加するなら新刊を出したい! 残り日数から、もうコピー本しか作れないけど。
んー……仕方ない。さっき考えてたギャップ変身系でいくしかないか。
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