72人が本棚に入れています
本棚に追加
細い指先が、亜麻色の髪の下に隠れていた猫耳に触れると、小さな耳がプルルッと震えた。あらわになった小さな耳は垂れていて、ギザギザの傷跡があった。
身に着けているものは、金の首飾りだけだ。鎖には大きめの金のチャームがついている。辺境伯はネックレスを手に取り、ペンダントヘッドを目にすると、ハッと息を飲んだ。
「これは……、王家のフォブシール(印章)じゃないか。一体、なぜ?」
辺境伯はフォブシールを手の中で転がして、角度を変えてすみずみまで見た。けれど王家が文書を出すときや約束を交わすときに、文書に蝋をたらして封をするために使う、フォブシール――ただし王が使うものよりは一回り小さいもの――であるということ以外の情報は得られなかった。
「トーマス、お前が言葉を失くしていることに、今だけは感謝しますよ。猫耳の少女を領主が拾ってきた……なんて領民に知られたら、一夜で平穏な暮らしが消えてしまうでしょうから」
トーマスは辺境伯のくちびるを読むと、胸に手を当て(まさかわたしが、誰かに秘密をもらすとでも?)と、信じられない! とおどけて顔を大げさにしかめてみせた。辺境伯が笑って肩をたたくと、トーマスは無骨な見かけに似合わない優しい微笑みを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!