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――違う。ハンカチを持ってバッグに入れたのは、サーシャさまの手じゃなかった
取り巻きは全部で五人だが、まだ四人しか来ていないようだ。ナタリアも来ていないところを見ると、ふたりは一緒にいるのかもしれなかった。今日はお祭りで気持ちが浮き立っているせいか、和やかな雰囲気だ。
開演五分前のブザーがなる。
「あれっ? ナタリアともう一人、どなたかがまだ戻ってきてないよ」
コティが椅子から半分腰を上げて、キョロキョロあたりを見回した。足早に近づいてくる人物に目を止めて、声をかけた。
「ルビー様、こんにちは。ナタリアさまとご一緒だったのではないのですか? ナタリアさまが、まだ席に戻って来ていらっしゃらないの」
ルビーはコティを見ると、目を大きく見開きくちびるを震わせた。まるで幽霊を見たような顔だ。
「なんで」
「え? なんですか?」
「いっ、いいえ。なんでもありませんわ」
ルビーはモゴモゴと聞き取れない言い訳をすると、自分の席に座った。気になる態度だったが、座ってしまうとコティの席からはもう見えなくなってしまった。
「ナタリア、どうしたのかな? 心配だな。探してこようかな?」
「でもテントは大きいわ。見つかるかしら? それにチケットは完売で、どこも人だらけだから、空席があれば目立ってしまうわ」
「うーん、人が多すぎるし動物の臭いが邪魔するけど、たぶんナタリアの香りは追えると思う」
「香りって?」
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