8 サーカス

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 コティは無理やり視線を団長から引き剝がすと、たまらずその場を逃げ出した。やみくもに走り、人気のない場所に着くと、コティはハァハァと息をついた。 「ここは……舞台袖の通路にゃ……」  コティは見覚えのある風景に、過去に戻ったような感覚になった。全体的に古びているが、テントは昔と同じものだ。くぐもった舞台の音が聞こえてくるのも、あの頃の記憶と重なる。 「ナタリアはどこにゃ?」  コティは匂いを嗅ぎながら、迷いなく足を進める。犬ほどではないが、猫の臭覚は人間の数十万倍だ。集中するとかすかにナタリアの香りが感じられる。 ――ナタリアはきっと近くにいる!  コティは暗い通路を迷いなく進んで行った。瞳孔が開くため、暗闇は問題にならないのだ。ナタリアの香りがだんだん強まってくる。近づいているのだ。それなのにホッとするよりも、ナタリアの香りに混じる別の匂いに不安な気持ちが強くなる。 ――これは、血の臭い……? ナタリア、怪我をしているのかも  コティはカーテンで仕切られた小部屋の前で足を止めた。  用具倉庫だ。舞台で使う道具などがゴチャゴチャと乱雑に押し込まれている。耳を澄ませてみる。物音ひとつしておらず、ナタリアの声もしない。コティは鼻に意識を集中した。  獣臭いにおい、人間の汗のにおい、埃っぽい空気に混じって、たしかにナタリアの香り、そして血の臭いがする。
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