70人が本棚に入れています
本棚に追加
コティは無理やり視線を団長から引き剝がすと、たまらずその場を逃げ出した。やみくもに走り、人気のない場所に着くと、コティはハァハァと息をついた。
「ここは……舞台袖の通路にゃ……」
コティは見覚えのある風景に、過去に戻ったような感覚になった。全体的に古びているが、テントは昔と同じものだ。くぐもった舞台の音が聞こえてくるのも、あの頃の記憶と重なる。
「ナタリアはどこにゃ?」
コティは匂いを嗅ぎながら、迷いなく足を進める。犬ほどではないが、猫の臭覚は人間の数十万倍だ。集中するとかすかにナタリアの香りが感じられる。
――ナタリアはきっと近くにいる!
コティは暗い通路を迷いなく進んで行った。瞳孔が開くため、暗闇は問題にならないのだ。ナタリアの香りがだんだん強まってくる。近づいているのだ。それなのにホッとするよりも、ナタリアの香りに混じる別の匂いに不安な気持ちが強くなる。
――これは、血の臭い……? ナタリア、怪我をしているのかも
コティはカーテンで仕切られた小部屋の前で足を止めた。
用具倉庫だ。舞台で使う道具などがゴチャゴチャと乱雑に押し込まれている。耳を澄ませてみる。物音ひとつしておらず、ナタリアの声もしない。コティは鼻に意識を集中した。
獣臭いにおい、人間の汗のにおい、埃っぽい空気に混じって、たしかにナタリアの香り、そして血の臭いがする。
最初のコメントを投稿しよう!