8 サーカス

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 コティは檻の中に腰を曲げて入り、ナタリアを抱き起そうとして、ハッと手を止めた。血だ。ナタリアの後頭部から、血が流れている。 「いやっ! ナタリアっ!」  コティは急いでナタリアの口元に頬を近づけた。 ――よかった。息はある。でも早く治療しないと  コティはナタリアの頭を抱えて膝に乗せた。ドレスが血で汚れたが、そんなことはどうでもよかったし、血の臭いも気にならなかった。  その時、背後からコツッと靴音がした。恐怖で振り返ることが出来ない。今は公演の最中だ。出演者はもちろん、衣装係や小物係も必要な服や道具はすでに持ち出しているはずだ。 ――この場所に来るということは、ナタリアをこの場に隠した人間にゃ? ナタリアを公演が終わる前にどこかに移動させるために、戻ってきたのかも  コティはうずくまって息をひそめた。侵入者に見つからないように、いっそ姿を消してしまいたい。  コツ、コツ、コツ、コツ……。  足音が近づき、檻の前で唐突に止まった。室内は照明もなく暗いのだ。もしかしたら、近づいてくる人間にはコティとナタリアが見えないかもしれない、とかすかな希望にすがって、ナタリアにおおいかぶさって身を縮めた。  足音が止まり、とん、と肩が叩かれた。コティはギクッと背中を震わせた。少なくとも、いきなり殴られたりはしなかった。コティはそろそろと後ろを振り返った。
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