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コティは檻の中に腰を曲げて入り、ナタリアを抱き起そうとして、ハッと手を止めた。血だ。ナタリアの後頭部から、血が流れている。
「いやっ! ナタリアっ!」
コティは急いでナタリアの口元に頬を近づけた。
――よかった。息はある。でも早く治療しないと
コティはナタリアの頭を抱えて膝に乗せた。ドレスが血で汚れたが、そんなことはどうでもよかったし、血の臭いも気にならなかった。
その時、背後からコツッと靴音がした。恐怖で振り返ることが出来ない。今は公演の最中だ。出演者はもちろん、衣装係や小物係も必要な服や道具はすでに持ち出しているはずだ。
――この場所に来るということは、ナタリアをこの場に隠した人間にゃ? ナタリアを公演が終わる前にどこかに移動させるために、戻ってきたのかも
コティはうずくまって息をひそめた。侵入者に見つからないように、いっそ姿を消してしまいたい。
コツ、コツ、コツ、コツ……。
足音が近づき、檻の前で唐突に止まった。室内は照明もなく暗いのだ。もしかしたら、近づいてくる人間にはコティとナタリアが見えないかもしれない、とかすかな希望にすがって、ナタリアにおおいかぶさって身を縮めた。
足音が止まり、とん、と肩が叩かれた。コティはギクッと背中を震わせた。少なくとも、いきなり殴られたりはしなかった。コティはそろそろと後ろを振り返った。
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