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「な、なんだ。トーマスか……」
コティはほぅっと息をはきだした。トーマスはコティがどこかに行くのを見て、追いかけてきたのだった。トーマスは首をかしげてナタリアを指した。怪訝そうな顔をしているところを見ると、『どうしたんだ?』と聞きたいのだろう。
「ナタリアを助けて、トーマス。怪我しているの」
コティが訴えた。薄暗い室内で、コティのくちびるはおぼろげにしか見えなかっただろうが、トーマスはうなずくとナタリアを抱いて慎重に檻から出した。横抱きにして、カーテンがかかっている出口に向かう。
振り返ったトーマスに、「わたしはすぐに追いかけるから、先に行っていて」と伝えたが、トーマスは首を振って立ち止まったまま動かない。
「おねがい。すぐに追いかけるから。ナタリアを早く!」
コティはトーマスの背中をぐいぐいと押した。トーマスは困った顔でうなずくと、ナタリアを揺らさない最速の速さで歩き去った。ナタリアの怪我の様子から、あまり猶予はないと判断し、治療してもらえる場所にナタリアを連れて行ったのだろう。
――ナタリアが心配だけど、トーマスにまかせておけばきっと大丈夫。だから、早く。早く何か手がかりを見つけなくちゃ!
コティは何か犯人が落としたものがないかと檻の中にもどり、床に膝をついて調べた。しかし何もない。異物と言えるものは、ナタリアの血だけだ。
――血の臭いに酔いそう
コティはせきこんでしまった。鼻をハンカチで押さえるが、オエッとえずきそうになる。檻の中には何もないので、部屋を調べることにする。
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