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――吐いている場合じゃない。しっかりするんだ。何か、何かないか? 犯人はナタリアを殴ったのだ。きっと殴った道具があるはずだ。
一分が凶器を探すには短すぎ、敵に見つかるかもしれないと思うと、あまりにも長すぎる時間と感じる。すでに持ち去ったのかもしれない、という考えがよぎったが、コティは見落としがあってはいけないと部屋中を調べて回った。
檻の扉の近くに、ナタリアのものではない臭いを感じた。おそらくナタリアを檻に運び入れる時に、扉を握ったせいだろう。
「この臭い……。知ってる。でも誰の……?」
「わたしよ」
ハッとして振り向くと、人影があった。
「ルビーさま! なぜ……?」
「暗いのに、わたしが見えるの? 夜目がきくのね。うらやましいわ。わたしも暗闇で目が見えたなら、コティ、あなたなんかと間違えてナタリアさまを殴っちゃうことはなかったのに」
「わたしと間違えてナタリアを気絶させたの?!」
「そうよ。観客席でコティを見かけて本当に驚いたわ」
「なぜ……? ナタリアはルビーさまは誰かに命令されたんじゃないかって言っていたけど、そうなんですか?」
「命令?」
ルビーはくちびるをゆがめ、「あの方はそんなことしないわ」とどこかうっとりとした口調で言う。
「あの方? 誰なの? 命令したのはシルビアさまじゃないのね?」
しかしコティはルビーの返事を聞くことは出来なかった。というのも、ルビーが舞台の小道具の花瓶をつかみ、頭上に振り上げた手を目にしたせいだ。視線がルビーの手に吸い寄せられてしまい、コティは無防備に殴られた。
意識が薄れていく中、コティは「この手……!見付けた! ハンカチを拾ってバッグに入れた手だ。見付けた……」と考えていた。
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