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 女神カルパは(うれ)えていた。幾百年もの間、女神カルパが住まい安息の地であったウィルディシア国に、どろりとした闇が迫っているのだ。  透き通るように白くしなやかな手が、宙にキラキラと浮かんでいるたくさんの欠片の中から、ひとつを選び取った。欠片は未来の可能性を映す鏡だ。女神の指先につままれている欠片の、静かな水面(みなも)のような表面には、耳の垂れた仔猫が一匹、映っていた。 「やがてウィルディシアを(おお)い尽くすであろう巨大な闇……。この小さきものに変えられる運命とは思えぬが……しかし、他に選択肢はないようだな。この地を捨てるか、小さきものの可能性にかけるか……?」  女神カルパは思案深げに欠片を見つめた。やがて仔猫は亜麻(あま)色の髪の少女に姿を変え、ひとつの未来がコマ落としの映画のように高速で投影される。  淡い金色の髪の麗しい青年が現れ、少女の頭に手を伸ばした。少女が頭に巻いているヘアバンドがわりの緑色のリボンを青年がほどくと、隠れていた猫耳が現れた。猫耳は垂れているので、少女の亜麻色の髪になかば埋もれている。青年の長くしなやかな指が、猫耳を優しくくすぐる。少女がしあわせそうに目を細め、クスクス笑う。 青年は猫耳から顔に手のひらを滑らせ、いつくしむように頬を包むと、少女の頬がぽっと染まった。ふっくらとしたかわいらしいくちびるに青年のくちびるが重なる……。
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