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1 アンドレッドの森
オオーン……オンッ、オオーン……ワオォォォォン……
暗闇に狼の遠吠えが響く。
レイクウッド辺境伯は、手綱を引いて馬を止め、怯える馬の首筋をやさしく手で叩いてなだめた。
すらりと姿勢のよい乗馬姿から、洗練された上品さがただよう。目深にかぶった茶色のマントのフードには、狼に似せた耳がついている。
顔の上半分はフードに隠れて見えないが、形の良い口元と髭のない顎がこわばっているのがかろうじて見て取れた。人付き合いを嫌う辺境伯は、時折こうして狼の耳のついたマント姿で深夜動き回るため、ワーウルフだという噂を呼んでいた。
白毛の馬は耳をピンッとそばだて、落ち着かない様子で首を振り、ぶるる……と鼻を鳴らす。
――一、二……三……おそらく五匹以上いますね。鳴き交わす声からすると、さらに集まってくるのは間違いないでしょう……
辺境伯の屋敷がある「アンドレッドの森」、通称「昏迷の森」は広大で、多くの狼が住みついている。人間と狼はお互いを怖れ、関わり合いになることを避けて生活していた。接近しない、目に触れない、刺激をしないのが一番いいのだ。そのため、辺境伯が治めている領地の人間は、入り口付近にしか立ち入らない。それも必要に迫られたとき、かつ日が高い時間に限られる。
今宵は月が雲に隠れ闇も深い。すでに狼の支配する時間だというのに、辺境伯は昏迷の森を供も連れずに馬を急がせていた。
――仕方あるまい。病に倒れ、あのように嘆いておられる王を置いて帰るわけにはいかなかったのだから……
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