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辺境伯は小さく息を吐いた。
久しぶりにお目にかかった王は、ハンサムだった面影はあるものの、ひどくやつれていた。病床の王は辺境伯の手を握り、「どうかウィルディシアの未来を、息子たちを守ってほしい」と頼んできた。
辺境伯は王の手をしっかりと握り返し、「御心のままに」と誓った。王は「よろしく頼む」と言うと、安心したように眠ってしまったのだった。辺境伯は王の手を握り、しばらくの間、離れがたい気持ちで側に付いていたが、日が落ちて部屋が薄闇に包まれると、うしろ髪を引かれつつ城を後にした。
まだ狼の気配は間近に迫っていないとはいえ、馬を降りて馬を引いて行くには、館までまだだいぶ距離がある。それに一年ほど前に隣国から逃げ出した罪人が「昏迷の森」に逃げ込んだという噂もある。辺境伯は馬に乗り、早く館に帰りたかった。
ウオオン……。オン、オオーーーン!
狼たちが騒いでいる。
「奴ら、なにか獲物でも見つけたのか?」
それにしては、遠吠えをくり返しているだけで、いまだ獲物に襲いかかっていないようだ。
――獲物が大きいのか、または狼を警戒させるような動物なのか? 狼の狩りを邪魔して自分が刈られるはめに陥るようなことは避けたいが……
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