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コティはとっさに身を隠すようにして、後ずさりした。二人の息遣いが聞こえない距離まで来ると、コティはドレスを両手で持ち上げてやみくもに庭園を走った。小さな噴水まで来ると、ベンチに倒れ込んではぁはぁと肩で息をついた。
――ドキドキして、口から心臓が飛び出ちゃいそう! 見られてはいないわよね? すぐに隠れたし。
あのふたり、恋人同士なのかしら? きっと、そうよね。
ううん、そんなことどうでもいいのだわ。
蜘蛛の刺青、見付けたわ!
本当にいるんだ。顔が見えなかったのは惜しかったけど、わたしの顔を見られる可能性もあったのだから、よしとしにゃきゃ……
コティはしばらく木の下で息を整えると、早く戻らなくちゃ、と思った。
――蜘蛛の貴族はわたしが見ていたことに気が付いていた。パーティーに戻って、誰かいない人はいないかと探されたら、わたしだって分かってしまうかもしれない。
――けれど逆に、わたしがいなくなっている貴族は誰かって、調べることができたら? 蜘蛛の貴族が誰か、っていうことがわかるんじゃない?
コティは倒れ込んでいたベンチから顔を上げた。
やっぱり早く戻らなくちゃ、とコティは足を踏み出そうとしてピタリと動きを止めた。
「あれ? 帰り道はどっちだったかな」
逢い引きするふたりから離れることしか考えていなかったので、帰り道がわからなくなってしまった。
「困ったにゃ……」
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