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コティは見覚えのある場所はないかと周囲を見回したが、ぐるりと薔薇に囲まれている。
「仕方ない。最後の手段を使うしかないか」
コティはキョロキョロして周囲に誰もいないことを確かめると、靴をポンポンッと脱いだ。銀の葉をつけた大きな木に手をかけると、木の上にあっという間に駆け上がって大ぶりな枝に腰かけた。身体能力が高いのは元猫のなごりだ。
「見えた見えた! 会場はあっちだね」
コティは木から飛び降りようとしたが、話し声が聞こえてきたので、木の上で身を縮めた。貴族の令嬢が木登りをしていた……なんて知られたら、どう考えてもまずい。
――あれ? 男の人がふたり、言い争っているみたい
コティは気が付かれないように息をひそめて耳をすませた。
「ロナウド、なぜちゃんとふたりを見ていなかったんだ」
「す、すまない」
――ん? ロナウドって……
コティは木の葉の間から顔を出した。案の定、ルカ王子とロナウド将校が言い合いをしながら足早に歩いて行く。
「しかもメアリと3回も踊って、4回目のダンスを申し込んで断られたそうじゃないか。フィアンセではない限り、一人の令嬢と踊るのは3回までと決まっているのは、いくら堅物のお前でも知っているだろう?」
「うっかりしただけだって。ほら、コティを探すんだろう? メアリもコティがいないって真っ青になっていたし、早く見つけないと」
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