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掴んだ少女を落とさないように手に力を込めて少女を包む被膜を握りしめ、腕にくらいついている狼の眉間を狙って強く蹴る。
「キャンっ」と甲高い鳴き声をあげて、狼は地面に落下し何度も跳ねながら転がっていった。
「フッ」と辺境伯は息を小さくはき、腕に力を込めて少女を引き上げ、馬の首と自分の間に乗せた。
「よし」
しかし、ほっとしたのもつかの間、他の狼たちが群れになって追いかけてくる。狼たちのけたたましい鳴き声が夜の森に響き渡る。
「頼みましたよ、パシフィカス。あなたの脚が頼りです」
馬に声をかけると、手綱を握りしめ、腿でしっかりと馬の胴を挟む。パシフィカスはスピードを上げ森を疾走した。
足に狼の生暖かい息がかかる。噛みつこうとして、首を伸ばし牙を剥いているのだ。
「もっと速く、パシフィカス!」
トップスピードで走りながらも、馬は主人を気にするそぶりを見せた。狼に噛みつかれた腕が痛み、手綱を握る力が徐々にゆるんでいることに気が付いたのだ。
「大丈夫、行ってくださいっ!」
辺境伯は馬を安心させるように、狼に噛まれていない左手で、手綱を二本まとめてしっかりと握り直した。
足場の悪い森の中だが、館に通じる通いなれた道だ。木の根のでっぱりのひとつひとつさえ、記憶している。パシフィカスはスピードを緩めることなく走り抜け、徐々に狼たちを引き離していく。
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