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しかしまだ安心することは出来ない。館の敷地内に狼たちが入り込む前に、門を閉じなければ。
辺境伯は首にかかっている銀の鎖を片手で手繰り寄せた。小さな銀製の笛を取り出して強く吹く。
ピーーーーイ……ピーーーーーイィィ……
意外にも音はかすかだ。そのかわり強く空気がふるえる。音のない音が脳に直接響く、特殊な笛なのだ。数秒の後、館の鉄製の門が内側に細く開き始めた。馬がギリギリ通れるほどの幅の隙間が出来たところで叫びながら、手を振って合図する。
「トーマス、もういい。そこをどいてください!」
門を押していた使用人のトーマスが体を開いて道を開けると、パシフィカスが走り込んだ。門をくぐり抜けるや、「閉めてくださいっ!」と、叫びながら同時に手で合図してトーマスに指示を出す。強く手綱を引き、馬を止め、鞍から少女を降ろすと、辺境伯は自らも門に飛びついた。
「押してっ!」
トーマスは黙ってうなずくと、肩を門に押し当て大きな体で門を押した。
閉まりかけた門の隙間に、狼達が次々に体当たりする。鼻先をねじ込もうとしてくる狼達を押し返しながら、なんとか門を閉める。
地面に座り込んで、ハッ、ハッ、ハッ、ハッと肩で息をつく。
トーマスが地面に寝かせてあった少女に近寄り、傍らに膝をつくと、辺境伯を振り返った。
トーマスは少女を抱き上げようとして、手を止めた。
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