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ハロー・マイプリンス!
最初に目に飛び込んできたのは、一面の青だった。
明るい森にきらきらと木漏れが舞っている。足元には、釣鐘型の青い花の群生。その美しい光景がはるか先まで続いている。
青い花の名は、ブルーベル。その素敵な花の名前をトトはちゃんと覚えていた。それなのに――
一面のブルーベルを足で踏んづけないように気をつけながら、トトは森の中をさまよい歩いていた。
自分がどこから来たのか、どこへ行けばいいのか、さっぱり見当もつかないまま。
(どうしよう。どうしよう。どうしよう)
何も思い出せなかった。分かるのは、トトという自分の名前。たぶん歳は十歳。この花の名前は思い出せた。あとは――
明るい森の中にいるくせに、暗がりを手探りで進んでいるみたいだった。さっきから森の中はしんと静かで、小鳥のさえずりと蜜蜂の羽音しかしない。
何かに頭をぶつけたりして、一時的に記憶が混乱しているだけなのかも。きっとここは自分の家の近くで、歩いていればそのうち知っている誰かが――
(でも、どっちに行けば僕の家があるんだっけ。僕の家族は――?)
いつまで経っても何も思い出せない。不安で不安で、小さな掌で自分の頭をトントンンと叩いた。
「……何で。何でなんにも思い出せないの……」
じわり、と目頭が熱くなる。
こんなにきれいな森なのに、怖くて怖くてたまらない。さっきから誰にも出会わないせいで、世界中にたったひとり取り残されてしまったような気がした。
トトの小さな心臓がばくばくと音を立てる。
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