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驚いてぱっと顔を上げた。自分を見下ろす背の高い人影。
純白のローブが、さらりと足元に揺れた。長い長い銀の髪が、ふわりと風に舞う。
少しずつ視線を上に滑らせた。
ほのかな光を放つ白い肌。上品な細い鼻筋。熱のない薄いくちびる。白銀のまつ毛の奥に、ラヴェンダー色の瞳。
その瞳が優しげに微笑みかけている。
夢か幻のようにきれいだった。こんなにきれいな人に、いままで出会ったことがない。
(――人間、じゃない。エルフだ)
その証拠に、銀の髪から飛び出した耳の先がぴんと尖っている。
驚いたせいで、涙がすんっと奥に引っ込んだ。
エルフは北方に暮らす種族だ。その土地の名はエルフィンラント。人間界から見れば、近くて遠いおとぎの国。
「……わぁ、人間の子どもだぁ。かわいー」
トトを見下ろし、エルフはほわほわと笑った。トトも呆然としながらよろよろと立ち上がる。
(記憶をなくしたら、エルフが助けにきてくれた……お財布落としたら、一億当たったみたいな……違うか)
トトが立ち上がるのと同時に、エルフはその場にしゃがみこんだ。
すると、背の高いエルフと小柄なトトの目線がちょうど同じ高さになる。
「こんにちは。僕はタイロンと言います。君の名は?」
だけどその名前を聞いた途端、気を失いかけた。
(――た、タイロン!? うわあぁ……)
タイロンというのは、エルフィンラントの王家に生まれた男子のみに与えられる高貴な名前だ。自分のことはさっぱり思い出せないくせに、こういうことに関してははっきり覚えている。
「た、タイロン様ということは……もしかしてエルフの王様でいらっしゃいますか?」
にこりと微笑むタイロンの目許から神々しい光がこぼれる。眩しい。眩しすぎて目に毒。
「えっとね、いまの国王は僕の父で、つぎは僕の兄が王位を継ぐ予定。僕は次男だから王様にはならないと思うよ」
(エルフの国の王子さまぁー!)
一歩後退り、ガバッと頭を下げた。
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