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エルフィンラントは常春の国だから、ブルーベルの森はいつも満開だ。
海域に寄ったついでに、久しぶりにブルーベルの森へと飛んだ。
出会ったあの日と同じ、夕暮れ。
少し疲れを見せたトトを胸に抱きしめ、タイロンは春風に揺れるブルーベルの群生を眺めた。
「……初めてこの森でトトを見つけたときね」
耳元に、大好きな人の優しい声がする。
「こんなに可愛い子には初めて会ったと思った」
「……鼻水を垂らした、迷子の子どもだったのに?」
トトが言い返すと、タイロンはくすくすと笑った。
「そう。鼻水を垂らした迷子の子どもだったのに。だからね、大きくなったら僕のお嫁さんになってもらおうって思ったんだ。何となく、そうなるような予感がした」
「……会ったその日にってことですか? それ本当の話ですか?」
「本当です。僕はトトちゃんに嘘をついたことはありません」
どうだろうか。ロンさまは、僕を甘やかすのが上手だから。
あの日からずっと、この温かい腕の中にいる。
「ロンさま」
「なぁに」
「もし生まれ変わっても、もう一度僕を見つけてくれますか?」
「もちろん。どこにいたって、必ずトトを見つけ出すよ」
優しい春の風が、幸福の香りを運んでくる。
決して変わらない思いを風の背に乗せて、
遥か遠い未来まで。
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