犬を飼うといいことしかない

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犬を飼うといいことしかない

(ゆう)兄ちゃん、私これからバイトいくからね。ちゃんと朝ご飯食べるんだよ」  妹の(ゆい)はそういい、家を出ていった。  僕は先月までつとめていた会社が倒産したため、今はニートを満喫していた。  無職のため、時間だけはある。  そろそろ就職活動しなくてはなと思うんだけど一度ぬるい生活を覚えてしまうと重い腰はなかなかあがらない。  一日アニメをみたりゲームをしたりしているとあっとういうまに時間がすぎてしまった。  またこうして一日を無駄にしてしまった。  夕方になり、妹の唯がバイトから帰ってきた。 「はあ、またお兄ちゃん一日ジャージですごしたのね」  と唯はあきれている。 「明日、おじさんの家にいってワンちゃんひきとってきてよね」  夕食の場で唯は言う。  僕の叔父の友人が急逝してしまい、その人が飼っていた犬を僕たちが飼うことになったのだ。  たしかコーギーの雄で、年齢は四歳になるんだったけ。  最初、犬を飼うなんて面倒だから僕は断ろうと思った。  だけど唯がどうしても飼いたいというから、迎えることにした。  翌日、僕は叔父の家にそのコーギーを引き取りに行った。  茶色のふわふわのかたまりが僕めがけて走ってくる。  短い足に額に縦にはしる白い線が印象的だ。  典型的なウエルッシュコーギーだった。  そのコーギーの名はアキラといった。  前の飼い主が好きだったアニメ映画からそうつけたらしい。  僕は叔父の車でアキラをのせて帰る。  アキラをつれてかえってくると唯がにこやかに微笑む。アキラをだきあげる。  アキラはぺろぺろと唯の頬をなめる。 「なにこのかわいいだけの生き物は」  めずらしく唯がはしゃいでいる。  両親があいついで病死してから、唯がこんなに笑うのははじめてかもしれない。  アキラが我が家にきてから、生活が激変した。  コーギーという犬種は体力がありあまっているので散歩はかかせない。日に二度、朝夕一時間ずつ散歩する。決まった時間に起きなくてはいけないので、自然と生活が規則正しくなる。  運動不足も解消され、体の調子も良くなってきた。  せっかくなのでアキラの写真をインスタグラムにのせるとけっこうな数のいいねをもらえた。  アキラはやんちゃなので気をつけないと家がめちゃくちゃになる。テーブルの足はガジガジとかじられて削られてしまった。  イラストが得意な唯はアキラとの生活を漫画にして、Twitterにあげるとこれまたかなりのいいねがもらえたという。後日、この漫画は書籍化され、唯は念願の漫画家デビューをはたす。 「あらっアキラ君ですよね」  アキラを散歩していると、シュートカットの可愛らしい感じの女性に声をかけられた。 「ええそうですよ」  僕は答える。 「いつもインスタグラムみてます」  そういう彼女にアキラは遠慮なくすりよっていく。  飼い主に似ず、アキラは積極的だ。 「あははっすごい人懐っこいですね」  アキラはうれしそうに彼女の頬をなめていた。  人懐っこく、甘えん坊なのがコーギーの特徴なのか、アキラの性格なのか。それともその両方なのか。 「私もワンちゃんかってるんですよ」 「へえ、どんな子ですか?」 「ビーグルの男の子で六歳になるんですよ。あっ今度よかったら一緒に散歩しませんか」 「ええ、ぜひ」  僕たちはこのあとLINEを交換した。  ショートカットの彼女は真希(まき)さんといった。  アキラが家にこなければ彼女としりあうことはなかっただろう。  ちなみにこの二年後に僕と真希さんは結婚する。  まったく犬を飼うといいことしかない。  
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