04.考えれば考えるほど

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04.考えれば考えるほど

 考えれば考えるほど、美咲はその靴を箱から出して実際に履いてみようとは思わなかった。その靴を履いたら負け、みたいな気分がやってきたし(もちろん、勝ち負けの問題でもないけれど)、その靴を履くのは智仁への未練や執着が残っているようにも思えたから。  美咲は自分の部屋に戻り、靴の入った箱を手に取る。ライムグリーン色をした無地に見える包装紙。よく見てみると、細かな模様が薄く描かれている。細い通路が入り組んだ迷路のような幾何学模様。どこにも行き着く先がないようにも思える迷路。  どこかに捨てるしかない。出口のないような迷路を眺めていた美咲の頭に、ふとそんな考えがひらめいた。  けれど、きちんと包装紙に包まれた新品の靴入りの箱なんて、どこに捨てればいいのか見当もつかない。  仕事中にパソコンを打つ手がふと止まった瞬間、夕食の食材を買うスーパーで通路を曲がった瞬間。あるいはスマホアプリでメッセージを相手に送り終えた瞬間、イラストのアイデアを考え疲れた瞬間。そういった瞬間に、靴の入った箱の姿が頭に浮かんだ。
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