におい

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におい

 直也は裕子が好きだった。  クラス一の美少女。高嶺の花。いつも一人で居、超然と窓の外など眺めている。 (気位が高いのだろうな)  直也はそう思う。  直也は胸の内を裕子に打ち明けたかった。裕子と友達になりたかった。できれば、恋人に。  しかし、自分にまったく自信がない。野暮ったく、暗く、オドオドしていて、裕子と違った意味で友達がいない。直也はそう思い萎縮していた。  だが、直也の恋の炎は消えることがなかった。日増しに裕子への想いが強まる。炎が燃え盛る。 (暗くて野暮ったい僕だけど、どうしても、どうしても裕子と友達にーー)  ある晩、直也は手紙をしたためた。ラブレターだ。 (明日こそ、裕子に接近するんだ。いつもぼさぼさの髪を整え、制服もクリーニングのおろしたてを着、歯を磨いて、顔も丁寧に洗って、爪も切って、裕子に手紙を渡すんだ)  直也はそう意気込んだ。  翌日。  昼休み、裕子はいつもそうしているように独りで腰かけ、窓の外のグラウンドを眺めていた。  直也は勇気を奮った。高鳴る鼓動。震える脚。  一歩一歩裕子に近づく。  裕子がこちらを見た。直也と目が合った。直也が接近してくるのを裕子は悟った。  裕子は叫んだ。 「ーーくさいから、こっち来ないで!」  直也の全身は硬直した。  そして、あふれ出ようとする涙をこらえながら手紙を握りつぶし、直也はおずおず引き下がった。  学校が終わった。裕子は帰宅する。  裕子は母に告げた。 「母さん、いつになったらワキガの手術受けさせてくれるのよ。こんな体臭じゃ、友達も恋人もできやしない!」
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