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雨の音が、止んだ。
静かになった脳内に、蜘蛛に張り付かれて半狂乱になった亜里沙の姿が、よみがえってきた。
彼女の背中を、躓いたはずみで「うっかり」押してしまった、手のひらの感触も。
ケントのことも、忘れてはならない。
亜里沙に送ったメッセージは、克明に覚えている。
《亜里沙、どう? うまくあいつ、沼に落とせた? すぐ近くにあったろ? さっさとやって帰ってこないと、集合時間になっちまうぞ》
打ちながらにやける顔まで、容易に浮かんでくる。
自分の身に危険が及んだ時、ケントは、どんな声で泣くのだろう。
亜里沙のように、叫ぶのだろうか。
無害の落ち葉のように近づいて、至近距離で奇怪な四肢を広げたら。
いったい、どんな顔をするのだろう。
想像して、少しだけ笑ってしまった。
そのうち、遠くからかすかにパトカーの音が聞こえてきた。
迎えに来てくれたようだ。
男の上着のポケットから取り出したSDカードを、食卓の端にそっと置き、目を閉じる。
無垢で非力で怯えきった、13歳の少女の顔をして。
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