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彼は一見するととても大人しそうな雰囲気をしているのに、実はとんでもなく頑固者で、一度決断すると他人の意見を聞かないところがある。
そういえば、妹も聞き分けがなかったと、ふと、おてんばベネットのことを思い出す。彼らはとても似合いの夫婦になるだろう。この事件が無事解決し、再会を果たした頃には二人は結ばれる。そうして自分がユーインを抱いたように、ユーインはベネットを抱き、ふっくらとした可愛らしい赤ん坊を育んでいくだろう。ふたりが仲睦まじく過ごす姿が簡単に想像できる。
当然、邪魔者の自分は立ち会う事も許されず、血に飢えた神の奴隷として永遠を彷徨い歩くのだ。
惨めな自分の将来を悟った瞬間、エイドリアンの胸は急に息苦しくなり、自分がいかに粗悪な存在なのかを思い知る。
何か小さな箱に自分を無理矢理詰め込まれるような感覚だ。この感覚は最近常に感じることでもあった。言い知れない虚無感が彼を襲う。しかし今はそんな悲観的になっている暇なんてない。エイドリアンは自分の体調がまだ完璧ではないからだと思うことにしてずっと頭の片隅にある考えを振り切った。
「どうかしたの? やっぱりまだ疲労が残っている?」
エイドリアンの表情がくもっていたからだろう、美しいルビー色の瞳が気遣わしげに見つめ返してきた。
エイドリアンは大丈夫だと首を振るも、ユーインは納得できないようだ。
「今日は帰ろう。このまま戦うのはよくない」
魅了する赤い唇はエイドリアンを説得するために動いている。
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