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なんという名案だろうか。エイドリアンは美しい青年の誘惑に魅了された。
エイドリアンの決意が揺らぐ。
今すぐ窮屈な小部屋に立ち戻り、誘惑的なその唇を奪いたい。彼の肌にまとわりついている衣服を剥ぎ取り、その清らかな肉体に自らの楔で貫き、貪り尽くしたい。
今日が始まるこのひとときが甘美に変わる。
想像しただけでもエイドリアンの欲望がジーンズを押し上げ、脈打つのがわかる。
しかし、それもままならない。
なにせ今まさに、エイドリアンの研ぎ澄まされた耳には悪魔たちが産声を上げている。悠久の大地を見渡せるかのようなすこぶる見通しのいい目は墓地から這い上がってくる赤ん坊のような姿をした小さな彼らが見えていた。
そして彼らもまた、エイドリアンとユーインを標的にしはじめたからだ。
エイドリアンは小さく舌打ちすると、群れとなってやってきている悪魔と対峙する。
隣を見れば、ユーインも彼らを見据えていた。
ユーインはやはり美しい。優れた彫刻家が彫り上げたような美しい双眸が彼らを見据えている。
悪魔たちはその数三〇体。
数はそこそこ多いが、魔力は取るに足らないほどの小さなものだ。エイドリアンはこれなら自分ひとりだけで数分も経たずに全滅させることは可能だと、鼻で笑う。
甲高い産声を上げて泣き続ける悪魔は、自分たちを見下すエイドリアンが癪にさわったらしい。集中的に彼を見定め、身体を地面に這わせながら向かってくる。
エイドリアンは懐に忍ばせてあった銀のナイフを数本取り出し、彼ら目掛けて同時に投げた。
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