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実際、エイドリアンは成す術なく周囲に舞う爆風から身をかがめ、堪えるしかない。
漆黒の翼を羽ばたかせる悪魔はそんなエイドリアンを見てケタケタと嘲笑う。
だが、彼は気づかなかった。
もうひとりがその場から消えていることに……。
ユーインは爆風が届いていない木の枝に降り立つと、銀の糸を悪魔に向けて放った。
ユーインの糸は瞬時に悪魔の身体を不自由にさせた。おかげでエイドリアンを苦しめていた爆風は消え、周囲はたちまち静寂を取り戻した。
悪魔は驚いた。
エイドリアンばかりに気がいっていたため、もうひとりの存在に注意が削がれていたのだ。
実はエイドリアンがナイフを投げたのは自分の方に注意を惹きつけるための策略で、ユーインが次の攻撃へ移ることが目的だったのだ。悪魔はただ目の前にいるエイドリアンを懲らしめるために魔力を無駄に使ったにすぎない。
悪魔は身体に巻き付く糸を振り解こうと暴れた。唯一誤算だったのは、悪魔の力も魔力同様肥大していたことだ。糸と繋がっているユーインは恐ろしい力で引っ張られた。
エイドリアンに血液を飲まれたユーインの体力は消耗しきっていたのだ。華奢な肉体が大木に打ち付けられた。
何本も連なる太い木の幹が、悪魔によって振り回されたユーインの身体に耐え切れず、次々と薙ぎ倒されていく。
連続に与えられる衝撃によって、ユーインの意識は瞬く間に遠くへと誘われた。
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