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エイドリアンは腰に差してある剣を引き抜いた。闇夜の中で怪しく光る剣は大きくうねりを上げ、漆黒の翼を持った胴を真っ二つに裂く。断末魔の悲鳴を残す暇なく闇へと屠った。
今度こそ周囲は静寂に還った。
エイドリアンは一息つくと木の根元に横たわったユーインへと駆け寄り、抱き上げる。
「これだから止めたんだ……」
ただでさえ体力を消耗しきっている身体に鞭打って悪魔と戦うなどという愚かなことを仕出かしたのだろう。エイドリアンにぐったりと身体を預ける美しい彼に忠告したくなる。
けれど彼がいなければあの悪魔を消滅させることも困難だったのも否めない。そこまで強く言えるはずもないのだ。
しかし、である。
いくら疲労しきっていたとはいえ、ユーインは冥界の中でも一二を争うほどの実力の持ち主で、仮にも冥府の王の正妻であるベルセフォネの側近を務めた男だ。あんな低俗の悪魔に力負けするほど軟弱ではない。
人間界の中で生まれる悪魔は冥界の者にとっては赤ん坊そのもので、害はほとんどない――はずだった。
それなのに、今回出現した悪魔は自我を持ち、知能をも持っていた。
それはまるで、無知な赤ん坊が初めて武器を手にするようなとても危険な行為そのものだった。
人間界と天界の生態系が崩れ始めている。
天界神ウラノスが口にした内容は真実を語っている。
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