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あの打撃を受けた身体は、おそらく無傷だということは考えられない。赤黒い血液の塊が体内に溜まり、身体中のあちらこちらが青痣になっているはずだ。きっと今頃は身体を動かすこともできないだろう。
それなのに……。
今のユーインは寝台から立ち上がり、少し離れた窓まで難なく動けている。
しかも身体は傷一つついていない。
そこでユーインはふたたび床に落ちている無数の袋を視界に入れた。
その袋には微量だが、人間の赤い血液が付着している。
(まさか!)
ユーインは、ある考えにはっとして、自分の首筋にある二つの傷口に触れた。
たしか目が覚める前、熱い何かが注ぎ込まれるような感覚がしなかっただろうか。
――無造作に散らばった袋たち。
昼間の光を嫌うのにもかかわらず、一向に目覚める様子がないエイドリアン。
それらのことからすべてを察したユーインは過ぎった考えが真実であると断定せざるを得なかった。
昨夜、エイドリアンは悪魔を滅ぼし、負傷した自分を抱えてここに戻ったのだろう。
そして、渇望している身体は生身の血液しか受け付けないというのにもかかわらず、エイドリアンは神から与えられた献血用の袋の中に入っている古くなった人間の血を無理矢理胃の中に押し込み、そしてあろうことか、気を失ったユーインの体内へ自身の血液を注ぎ込んだのだ。
死を迎える前は不要だった食事が、ヴァンパイアになると必要不可欠になった。血液を損なえばたちまち命の危険をさらすことになる。
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