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それなのに、エイドリアンは血液を渇望している身体にかまわず、惜しむことなくその貴重な血液をユーインに与えたのだ。
「ああ、エイドリアン……どうして……」
瞼が熱くなり、ユーインの胸から熱いものが込み上げてくる。
無愛想で妹思いなエイドリアン。
強情で、けれど優しい冥界の王子。
ベルセフォネの側近だった自分と冥府の王子であるエイドリアン。
その立場はあまりにも違う。けっして手が届かないとそう思っていた彼がこんなにも近くにいる。
ユーインは、あらためて考えると、横たわる彼に触れたいと思った。
彼が自分のために血液を与えたのだと思えば、慕情がさらに増す。
この感情はあまりにも望みがなさすぎる。恋心を諦めなければと自分に言い聞かせるたびに、こうしてエイドリアンの優しい気遣いに気づき、この恋を捨てきれない。
(どうしたらいいのだろう……)
「エイドリアン、ぼくは……」
(貴方が好きです……)
けっして口では言えない想いを胸の中で囁けば、目頭が熱くなって、言葉の代わりに涙が溢れ出す。
そしてとうとう、ユーインは込み上げてくる想いに堪えきれず、エイドリアンの胸に縋ってすすり泣く。
どれくらいそうして泣いていただろう。静かな夜にも似た静寂の声に名を呼ばれた。
自分とエイドリアンしかいるはずのないこの部屋に、すぐ間近から声をかけられたユーインは驚き、息を吸い込んだ。
エイドリアンから身体を離し、声がする方を振り向けば、見知った彼女が立っていた。
「ベルセフォネ様」
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